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ながさきのいちべつ

長崎の一瞥

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,773 字 · 14 页

青空文庫

護法堂の布袋、囲りに唐児が遊れて居る巨大な金色の布袋なのだが、其が彫塑であるという専門的穿鑿をおいても、この位心持よい布袋を私は初めて見た。布袋というものに人格化された福々しさが、厭味なく、春風駘蕩と表現されて居る。云うに云われぬ楽しさ面白さ、という表情を以て無邪気極りなく格子の奥に笑って居る。

大観門の左右にあった、高さ凡そ二尺二三寸の下馬じるしを意味する一対の石の浮彫も目に遺った。この門の前、石欄のところに、慈航燈が在る。高く櫓形に石を組みあげた上に、四本の支えで燈籠形の頂がつけられて居る。恐らく昔、唐船入津の時節、或は毎夜、そこに燈明が点ぜられたものであろう。大体、この福済寺からの眺望は、長崎らしいということでは際立ったものと思う。細雨を傘によけて大観門外に立って見ると、海路平安と銘あるそのすっきりした慈航燈を前景とし、右によって市中の教会の尖塔がひとり雨空に聳えて居る。濡れた屋根屋根、それを越すと、煙った湾内の風光が一眸におさめられる。佇んでこれ等の遠望を恣にして居るうちに、私は不図、海路平安とだけ刻まれた四字の間から、海上はるかに思をやった明末の帰化人の無言の郷愁を犇と我心にも感じたように思った。