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まぶたのはは

長谷川伸傑作選 瞼の母

長谷川 伸

長谷川伸『長谷川伸傑作選 瞼の母』。同一底本的分册已合并为一书。收入:瞼の母、一本刀土俵入 二幕五場、沓掛時次郎 三幕十場、中山七里 二幕五場。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,753 字 · 192 页

青空文庫

おはま 可愛い子があるのだもの、去り状をとりたくないのが本心だったが、行きがかりが妙にコジれ、とうとうあたしは縁が切れた――その後つづいて永い間、江戸の空の下から江州は、あっちの方かと朝に晩に、見えもしない雲の下の番場の方を見て泣き暮したっけ。

忠太郎 五つといえばちッたあ物も判ろうに、生みの母の俤を、思い出そうと気ばかり逸るが、顔にとんと憶えがねえ。何て馬鹿な生れつきだと、自分を悔んで永え間、雲を掴むと同じように、手がかりなしで探している中に、おッかさんあッしも三十を越しましてござんす。

おはま お黙り。お前はあたしの生みの子とは違っているよ。何をいい加減なことをいってくるのだ。

忠太郎 えッ、ち、違ってる。あッしが忠太郎じゃねえのでござんすか。

おはま 名前は忠太郎かも知れないよ。生れた処も江州の番場宿か知らないが。

忠太郎 じゃ矢ッ張りあッしは。

おはま 傍へくるな図々しい奴だ。あたしの子の忠太郎は、九ツの時、はやり病で死んでしまったと聞いている。死んだ子の年を数える親心で、生きていたらあの子も今年三十二、いや一だったと、ゆうべも夜中に眼がさめて思い出していたくらいだ。