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かんちょうざじけん
間諜座事件
海野 十三
「日曜報知」1932(昭和7)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,989 字 · 21 页
R区は、いつもと、些とも変らぬ雑沓だった。
しばらくウィンドーの裸ダンスの写真を、涎を垂らさんばかりの顔つきで眺めて――
「さア、お前はどこに決めるんだ」
「俺は断然、この丸花一座を観る」
「じゃ俺もそう決めた。……いいよいいよ、今夜は俺が払うから、委しとけ」
「イヤ駄目だい。今夜は俺に払わせろ」
「いいんだよオ」
「いけないよォ」
頗る手際よく、だらしなくグニャグニャと縺れ合いながら弦吾と同志帆立はプログラム片手にひッつかんだ儘、嬉しそうに入っていった――だが一皮下は、棒を呑んでいるような気持だった。
明るい舞台では、コメディ「砂丘の家」が始まっていた。
流石にカブリツキは遠慮して、中央の席に坐る。
舞台は花のように賑かだった。
だが、それに引きかえ、観客席のQX30は、面こそ作り笑いに紛らせているが、胸の裡は鉛を呑んだように憂欝に閉ざされていた。そのわけは彼の手に握られたプログラムにあった。
この複雑きわまるプログラムのうちから、義眼を入れたレビュー・ガールの名前を探し出すなんて、如何に無鉄砲なことだか、そのプログラムのおもてを一と目見ただけで充分に知れることだった。