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とうそう

闘争

小酒井 不木

「新青年」1929(昭和4)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,079 字 · 38 页

青空文庫

の最初の一字ずつをとったのだ。無論狩尾君の眼にふれゝば、すぐその意味を知ってくれるだろう。僕としては、これが、今の僕の心の全部だ」

K君。これで北沢事件は真の解決を得たのだ。

このことがあってから、毛利先生は、ずっとその快活な状態を続けて居られたが、それから二週間たゝぬうちに、突然狩尾博士の脳溢血による頓死が伝わると、先生は以前にまさる憂鬱に陥ってしまわれた。

学者がその論敵即ち闘争の対象を失うほど寂しいことはない。多分先生の憂鬱もそのためであったと思うが、それは実に極端な憂鬱であった。そうして遂に肺炎にかゝって、狩尾博士のあとを追ってしまわれた。

かくて、日本は、得がたき俊才を一度に二人失ったのだ。こうした花々しい闘争がいつになったら再び行われるか、いつになったら精神病学が、再びこのように進められて行くかと思うと心細くてならぬ。今この事件を書き終ってふりかえって見ると、それが幾世紀も昔の出来事のような気さえする。K君、健在なれ!

(〈新青年〉誌昭和四年五月号発表)