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とうぎゅう

闘牛

国枝 史郎

「新趣味」1922(大正11)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,976 字 · 20 页

青空文庫

「何も怪しいとは申しません」

「そりゃ、そうなくてはならない筈だ」宮相は苦々しく呟いたが、俄に低く声を落し、

「名誉にかけて断言する! 侍従は決して怪しくは無いよ。どうしてと云うに其侍従は実はこの私の甥なのだ」

ラシイヌは別段驚きもせず「ははあ、閣下の甥御ですか」

「そうだ。そうしてもう君はその私の甥に逢っている筈だ」

「それでは私を迎えに来られた、あの侍従さんがそうですな」

「いかにもあれが私の甥だ」

「立派な方ではありましたが、先刻の御様子では若いに似合わず元気が無いように見受られました」

老宮相は吐息をして、「それにも理由があるのでね。何がというに、あの男最近婚約が破れたのさ」

「それで、相手の御婦人は?」

「それがさ、誠に云いにくいが、実はこの私の末の娘でね」

ラシイヌは宮相の言葉を聞くと、何が無しにニヤリと含笑んだ。それからじっと考え込んだ。

二人は互に眼を見合わせ、可成り長い間黙っていた。

「婚約は何人が破りました?」ラシイヌは、重々しく斯う訊いた。

「破った者は此私じゃ」老人の声も重もかった。

「どうしてお破りになりましたな?」

「気に入らぬ事があったから」