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とうぎゅう

闘牛

国枝 史郎

「新趣味」1922(大正11)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,976 字 · 20 页

青空文庫

鉄面皮い大年増の娼婦が一人、それでも彼の側へ寄って行ったが、紳士にジロリと見られると、周章てたように引っ帰した。

「なんて恐ろしい眼付だろう! 殺人者か強盗の眼付だよ」逃げ乍ら娼婦は呟いたのである。

此時、表の玄関へ一台の自動車が停められた。その自動車を見るや否や支配人はサッと顔色を変え転がるように出迎えた。略式の物ではあったけれど其自動車こそまぎれも無い宮中の自動車であったからである。果して扉を押し開けて侍従服の高官が現らわれた。

支配人は三度頭を下げ砕けるように手を揉んだ。

「お前が此処の支配人か?」侍従は厳かに斯う訊いた。

支配人は頭をまた下げた。

「それではお前に尋ねるが、リンネルの背広に鳥打帽を冠むり、支那竹の杖を携えた三十七八の紳士が今日、お前の所へ来られた筈だが?」

「は」と支配人は眼を見張り「たしかにお居ででござります」

「その方をお迎えに参ったのだが、只今何処に居られるな?」

「ボーイ!」と面喰った支配人は金切声で呼び立てた「地下室の酒場に居られますそうで」

「其処へ案内して貰いたいな」

支配人は汗を拭き乍らボーイを無闇に睨み付け、恐縮し切った足どりで侍従を酒場へ導いた。