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おかめ

阿亀

豊島 与志雄

「文芸春秋」1925(大正14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,900 字 · 14 页

青空文庫

でもまさかそうもいえないから、やっぱり、遠縁に当る人だって答えたんだけれど、冷汗をかいちゃったのよ。」

だが、話の本当の筋途は平川にも僕にも分らなかった。そして、巡査を利用して実意を示すという伊坂のやり口だけが、噂の種に残ったのだが……。

「君も随分むてっぽうだな。何の見境もなく、いきなり人の細君に馴々しく話しかけるなんて……。」

前につっ立ってそんなことをいってる木谷の顔を、僕は回想から覚めて、ぼんやり見上げていた。

「僕はわきでひやひやしちゃったよ。ひょんなことを君が饒舌り出しやしないかと思って……。」

「だが僕達の間では、随分話の種の多い女なんだからね。」

「それにしたって……。」

「それじゃあ、こんなところにやって来なけりゃいいさ。カフェーと撞球場とは、多少客が共通してるから、いつ誰に出逢うか分ったものじゃない。」

「いや、そういう危険を冒してまで男を迎いに来る、その意気を買ってやらなくちゃあね。」

「そりゃ買ってやるが。」

「木谷さん、球の方は……。」

木谷の相手の男は、そういって促しながら、変に憂鬱な様子になっていた。

「済みません。」

木谷が球の方へ向き直ると、男はなおじっと僕の方を見ながら、言葉だけを木谷へ向けた。