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おかめ
阿亀
豊島 与志雄
「文芸春秋」1925(大正14)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,900 字 · 14 页
その靨の穴に見入っていると、ふと、三角形の据りのいい顔全体が、にこっと笑った。おや、と思ってよく見ると、ハバナの煙の向うから、またにこにこっと笑った。
「おい、何を独りで笑ってるんだい。」
木谷に声をかけられて我に返ると、頬に笑いが上ってくるのがはっきり意識された。
「はははは……。」
抵抗しきれないで声に出して笑ってのけて、僕は元気よく立上った。
「こんどは僕も入れてくれ。三人撞でいこうよ。」
木谷はまるい眼をした。が佐藤は、黒い額と眼とを光らして、天井をでも仰ぐような恰好に首を反らせた。
「宜しい、やりましょう。」
立上ったとたんに、窓から覗いてみると、外はやはり濛々とした霧だった。
その時は実際、阿亀の面が本当に笑っていた――と佐竹謙次郎はいうのである。