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おかめ

阿亀

豊島 与志雄

「文芸春秋」1925(大正14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,900 字 · 14 页

青空文庫

それがたしか、伊坂というのだった。

「うるさくって、面倒くさくって、本当に仕様がないのよ。……あら、あたしの方は何でもないわよ。」

平川や僕を相手に、お久はそういって笑っていたのだが……。

「君、知ってるのかい、あの女を。」

木谷は球を外すと、相手が撞いてる間僕の側にやってきて、薄ら笑いをしながら、いろんなことを饒舌っていった。

「あれは君、伊坂の細君なんだぜ。もとはカフェーに出てたとかいう噂なんだが、家をもっても、どこかそういった様子が残ってるようだね。こんなところにまで、図々しく押しかけて来たりしたりしてね。勿論、自分で来なけりゃ人がいないのかも知れないが、そんなにまでして、仲いいところを見せつけなくったって……。あ、私ですか。」

木谷がキューを取上げると、僕は一人で回想するのである。――当時平川は、お久に一寸気を惹かれて、しげしげカフェーに通ったものだった。その平川に向って、お久はよく伊坂のことを話した。どうも本気らしいから、あたし迷ってる最中だとか、嫌だけれど仕方がないとか、家の近くを夜遅くまでうろつき廻るんだとか……。

「おかしいんだよ君。」と木谷は声も低めずに云うのである。