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おかめ

阿亀

豊島 与志雄

「文芸春秋」1925(大正14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,900 字 · 14 页

青空文庫

「伊坂が球撞にこって、夜遅くまで家に戻らないのが、細君は嫌でたまらないらしいんだ。球撞ぐらい、いくらこったってよさそうなものじゃないか。それを、嫉妬……といっちゃ悪いか知れないが、気に病んで、十時頃になると、屹度自分でああして迎いに来るんだそうだ。」

或る時――これは前の方の話だが――伊坂は夜更けまでカフェーの前をうろつき廻っていて、巡査に咎められたことがあったそうである。お久は住み込みの女給になっていたが、そのカフェーが戸を締めて、すっかり寝静まってしまっても、何故か伊坂は付近から立去らなかった。春と云ってもまだ寒い夜のことで、もう人通りも絶えてしまったその往来を、犬のようにうそうそ歩いてるので、通りがかりの巡査が見咎めると、伊坂の答えが振っていた。実はこのカフェーに、自分の遠縁に当る女給がいて、夜分変な男がよく呼び出しに来て困るというから、一寸見廻ってたところだ……と。その巡査が翌日カフェーにやって来たので、話はぱっとなった。よく聞いてみると、実意を見せて下すったら……とお久が伊坂に約束したとか。

「一時遁れのでたらめな約束をして、あたし困っちゃったわ。