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あなんとじゅじゅつしのむすめ

阿難と呪術師の娘

岡本 かの子

「読売新聞」1928(昭和3)年5月6日~6月19日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,425 字 · 58 页

青空文庫

理由とは縁と因とである。阿難よ。可哀相にお前は宿世によって情にもろい性質に生れついて来た。薄紙の風に慄え易いように、お前の性質は人の情に感じ易くて堅固でない。従ってまた用心を欠く。それが求道の中途にあって肉親の温かい記憶を呼んだり、ある時は迂闊に道の辺の女人に水を求めて、はしなく恋情を醸さしめたりする。水の沁み易い土地はみずから招かざるも水より来って自ら沁む。これが因であるのだ。その性質へさらに女の深い情が縁として加わった。お前が罪を作ったのは結果だ。そしてその罪が悔を生んだ。

阿難よ。もしお前に求道の念さえ無かったなら、お前のしたことは、罪とも悔ともならなかったに違いないものを。お前に求道の念があるだけにそれに照し合せてお前は自分の醜さを見出した。そしてお前はそのように苦しんで居る。息も絶え絶えに苦しんで居る。

(阿難はとうとう気絶してしまう。娘はおろおろとして阿難を抱きかかえてみたり、また釈尊の前へ駈け寄ったり、正体もなく嘆く。)

娘 ――おお、阿難さまがお死になされます。お死になされます。

釈尊 ――娘よ、騒ぐな。阿難はしばらく凡身の機関を休めた迄なのだ。