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あなんとじゅじゅつしのむすめ

阿難と呪術師の娘

岡本 かの子

「読売新聞」1928(昭和3)年5月6日~6月19日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,425 字 · 58 页

青空文庫

その四

その五

わしはそれを楽しみに苦界へ戻ろう。勇んでまた責苦の難みに遇いに行こう。

(燃え立つ焔に包み取られて外道の論師は再び大地に没する。)

その四

(幻影が姿を消して仕舞ったあと、舞台面は現実感が一しお強められる。すなわちそれはもうすっかりこの世の闇になって居るのである。空には滴る星の光が縷められ園林の葉枝は夜風を迎え始めた。

虫とも鳥ともつかぬ澄んだ鳴声がセコンドの役を勤め、刻々宵を夜に移して行く。摩登伽尼の手には金糸、阿難の手には銀糸の端切れがまだ遺って居る。)

阿難 ――摩登伽尼、総てが判りましたな。

摩登伽尼 ――何の疑うところが御座いましょう。

(二人は胸に充実した感じを吹きさまそうとでもするように、深く息を吸い入れ暫らく沈思瞑目する。)

摩登伽尼 ――でも阿難さま。まだたった一つ私に判らない事が残って居るので御座います。

阿難 ――遠慮なくお尋ねなさるが宜しい。

摩登伽尼 ――恋……。何故人間には、人間の躓きになる恋などというものが、与えられて在るので御座いましょう。これだけがどうしてもわたくしには判らないので御座います。

その五

(阿難が如何に摩登伽尼に云い諭すべきか苦慮して居るうちに、園林は金光に輝き其処に仏陀の姿が現われ出る。