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いんえいらいさん
陰翳礼讃
谷崎 潤一郎
「経済往来」1933(昭和8)年12月号、1934(昭和9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,020 字 · 61 页
たゞわれ/\の感じることは、われ/\と同じ色の皮膚を持った彼等が一見似合いそうにもない武家時代の派手な衣裳を着けた時に如何にその容色が水際立って見えるかと云う一事である。かつて私は、「皇帝」の能で楊貴妃に扮した金剛巌氏を見たことがあったが、袖口から覗いているその手の美しかったことを今も忘れない。私は彼の手を見ながら、しば/\膝の上に置いた自分の手を省みた。そして彼の手がそんなにも美しく見えるのは、手頸から指先に至る微妙な掌の動かし方、独特の技巧を罩めた指のさばきにも因るのであろうが、それにしても、その皮膚の色の、内部からぽうっと明りが射しているような光沢は、何処から来るのかと訝しみに打たれた。何となれば、それは何処までも普通の日本人の手であって、現に私が膝の上についている手と、肌の色つやに何の違ったところもない。私は再び三たび舞台の上の金剛氏の手と自分の手とを見較べたが、いくら見較べても同じ手である。だが不思議にも、その同じ手が舞台にあっては妖しいまでに美しく見え、自分の膝の上にあっては只の平凡な手に見える。かくの如きことはひとり金剛巌氏の場合のみではない。