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いんえいらいさん

陰翳礼讃

谷崎 潤一郎

「経済往来」1933(昭和8)年12月号、1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,020 字 · 61 页

青空文庫

しかもその火の玉が一つあったらあれだけの廣さを照らすには十分なくらいであるのに、そう云う奴が三つも四つも天井に光っていて、その外にも小さな奴が壁に沿い柱に沿うて幾つとなく取り附けてあるのだが、そんなのはたゞ隅々に出来る隈を消している以外に、何の役にも立っていない。だから室内に蔭と云うものが一つもなく、見渡したところ、白い壁と、赤い太い柱と、派手な色をモザイクのように組み合わせた床が、刷りたての石版画のように眼に沁み込んで、これがまた相当に暑苦しい。廊下からそこへ這入って来ると、温度の違いが際立って分る。あれではたとい涼しい夜気が流れ込んで来ても、すぐ熱い風に変ってしまうから何にもなるまい。彼処は以前たび/\泊まりに行ったことのあるホテルで、なつかしく思うところから親切気で忠告するのだが、実際あゝ云う形勝な眺望、最適な夏の涼み場所を、電燈で打ち壊しているのはもったいない。日本人には勿論のこと、いくら西洋人が明るみを好むからと云って、あの暑さには閉口するに違いなかろうが、何より彼より、一遍明りを減らしてみたら覿面に諒解するであろう。だがこれなどは一例を挙げたまでであって、あのホテルに限ったことではない。