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いんえいらいさん
陰翳礼讃
谷崎 潤一郎
「経済往来」1933(昭和8)年12月号、1934(昭和9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,020 字 · 61 页
取り分け床を板張りや畳にすると、礼儀作法をやかましく云い、雑巾がけを励行しても、つい汚れが目立つのである。で、これも結局はタイルを張り詰め、水洗式のタンクや便器を取り附けて、浄化装置にするのが、衛生的でもあれば、手数も省けると云うことになるが、その代り「風雅」や「花鳥風月」とは全く縁が切れてしまう。彼処がそんな風にぱっと明るくて、おまけに四方が真っ白な壁だらけでは、漱石先生のいわゆる生理的快感を、心ゆく限り享楽する気分になりにくい。なるほど、隅から隅まで純白に見え渡るのだから確かに清潔には違いないが、自分の体から出る物の落ち着き先について、そうまで念を押さずとものことである。いくら美人の玉の肌でも、お臀や足を人前へ出しては失礼であると同じように、あゝムキ出しに明るくするのはあまりと云えば無躾千万、見える部分が清潔であるだけ見えない部分の連想を挑発させるようにもなる。やはりあゝ云う場所は、もや/\とした薄暗がりの光線で包んで、何処から清浄になり、何処から不浄になるとも、けじめを朦朧とぼかして置いた方がよい。まあそんな訳で、私も自分の家を建てる時、浄化装置にはしたものの、タイルだけは一切使わぬようにして、床には楠の板を張り詰め、日本風の感じを出すようにしてみたが、さて困ったのは便器であった。