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かいだん

階段

海野 十三

「新青年」博文館、1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,588 字 · 32 页

青空文庫

1

出来ることなら、綺麗に抹殺してしまいたい僕の人生だ。それを決行させては呉れない「彼奴」を呪う。「彼奴」は何処から飛んできて僕にたかったものなんだか、又はもともと僕の身体のうちに隠れていたものが、或る拍子に殻を破ってあらわれ出でたものなんだか判然しないのであるが、兎も角も「彼奴」にひきずられ、その淫猥らしい興奮を乗せて、命の続くかぎりは吾と吾が醜骸に鞭をふるわねばならないということは、なんと浅間しいことなのであろう。

嗚呼、いま思い出しても、いまいましいのは、「彼奴」が乗りうつったときの其のキッカケだ。あの時、あんなことに乗り出さなかったなら、今ごろは「キャナール線の量子論的研究」も纏めることができて、年歯僅か二十八歳の新理学博士になり、新聞や雑誌に眩しいほどの報道をされたことであろうし、それに引続いて、国立科学研究所の部長級にも栄進し、郊外に赤い屋根の洋館も建てられ、大学総長の愛嬢を是非に娶ってもらいたいということになり、凡ては小学校の修身教科書に出ているとおりの立身栄達の道を、写真にうつしたように正確にすすんで行ったことだろうと思う。