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かいだん
階段
海野 十三
「新青年」博文館、1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,588 字 · 32 页
茫然と突っ立っている僕の側を、何処に居たのかミチ子が脱兎の如く飛び出して、螺旋階段を軽業のように飛び上って行ったが、呀ッという間にまた上から飛び降りて来たのであるが、どうしたものか、まるで音がしなかった。それとともに何ヶ月振りかで彼女の白い太股についている紫色の痣のようなものを見た。それは軽業師にして始めてよくする処の外のなにものでもない。僕は四宮理学士が先刻言った言葉を思い出して、悒欝になった。それにしても四宮氏は二階に居ないのかしら。
「四宮さん!」
「……」
「四宮さんは二階に殺されていてよ」とミチ子が耳の傍で囁いた。サテは、と思って僕がミチ子を見据えた時、階上で叫ぶ声が聞えた。
「一体どうしたのだ。医師を五六人呼んでこい。早く早く」
その騒ぎのうちに僕はミチ子を逃してやりたかった。
「早くおにげ」僕はかすれた声を彼女の耳へ送りこんだ。
「まア、なにを言ってるの、貴方こそお逃げなさい、今のうちに」そう云って彼女は袖の中から褐色の表紙のついた本を僕に手渡すではないか。それは例のカラクリに用いたスコットランド・ヤードの報告書であった。僕は狐につままれたようになにがなんだか判らなくなった。