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ずいひつぜにがたへいじ
随筆銭形平次
野村 胡堂
16 捕物小説について
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 905 字 · 2 页
捕物小説は、ただもう卑俗な、全く無価値な文学であるかの様に読まぬうちから、或いは一寸めくって見て、軽侮する傾向が強いが、これは如何? 捕物小説はも一度見なおされるべきではないか。それよりも現在、捕物小説が圧倒的に大衆の支持を受けている事実を何と見ればよいのか。
捕物小説の構成上の制約は実に大きい。第一に、ピストルも青酸加里も使えない。ビルディングで活躍することも出来ない。時間の問題にしても、ゴーンと鳴る鐘の音にしか頼るべきものがない。この様に非常に極限された制約の中で、人間と人間――心と心とのふれ合いの中に、ただ、人情の機微の中にトリックが生れ出なければならない。一切の「非人間」は活躍の余地なく、ただ「人間」そのものに関聯してトリックが生れねばならない。ここに、香り高い「人間の文学」としての捕物小説の意味がある。或いは、こんなことを云ったならば叱られるかも知れないが、捕物小説は、近頃日本に於ける一部の所謂推理小説より、文学としてはより高等な段階にあるものではないかと、聊か自負しても見度くなるのである。
繰返して云うならば、捕物小説には、滅多な気狂が出て来ないと云うことだ。