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ざっきょかぞく
雑居家族
壺井 栄
「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页
「なにか、ご用ですか?」
けろりとした様子は弱味をみせまいとする勝気さである。五十女の安江も押されぎみだった。しばらくその顔をみていたが、スーツには気がつかないふりで、
「そうね、ご用とおっしゃられますと、困りますがね、実はあなたの顔をみたとたんに『ご用』がひっこんじゃった。」
「お説教だったんですか。」
「…………」
「その覚悟できたんですけど。」
「そう、お説教されるおぼえがあるの。」
「おばさんの主観でゆけば、なくもありませんわ。」
「むつかしい言葉知ってるのね。『おばさんの主観』て、なんですか。」
「皮肉をおっしゃらないでください。ほんとのことでぶつかるつもりできたんですから。」
「そう。じゃあ一つのことだけいいましょうね。ね、あなたが出かけるたびに、家中の者が心配しなくちゃあならないってことについて、浜ちゃん、考えたことある?」
「いいえ。別に。」
「そう。でもね、こんな風におそかったりすると、心配なのよ。東京ってこわいですからね。おたがいに心配かけないようにってこと、約束してもらえないかしら。」
「それよりか、おたがいに心配しないことを約束した方がよくないでしょうか。