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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

「ところで、お安さん、今日いるかね。」

「さあ、いるでしょ。わたし、昼間はあすこにいないのよ。」

そう気安そうにいってもらいますまいという顔だ。

「ほう、ひまとったんかね。」

「いいえ、わたしはじめっからおいてもらってるだけですわ。そのうち、部屋かりるのよ。」

「じゃあ、おつとめかね。」

「ええ、まあね。そのうちもっといいところへかわるつもりですけど。」

「ほうお。うちらの二三子もしょっちゅう職安へいってるがね。どっかないかね。」

「今はなかなかね。でもわたしはありそうよ。栗本のおじさんの会社よ。本屋さんなの。」

だれに聞けというのか、ふたりともいい気持そうな大声だった。注文聞きにきた小女が笑いながら、

「なににいたしましょう。」

兵六さんは急に気を大きくして、

「五目そばだ。おねえちゃん、おごるよ。」

浜子の名前を思い出さぬらしくいう。

「わたしは冷たいのたのんだわ。――ほらきた。失礼しますね。」

浜子はさっさとたべおわり、さっと立ち上って、

「ごちそうさま。わたしがここにいたこと、栗本さんでいわないでね。」

腹ができるにしたがって兵六さんの顔は急に元気づいてきた。