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ざっきょかぞく
雑居家族
壺井 栄
「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页
そして、何を思ってかゆっくりとまた坂道を上り出した。上るにつれて風がつよくほおをなでる。
夏樹と音枝のあらそいは夕方になってもつづいていた。音枝が終始、よせつけまいとするような態度なので、夏樹はくりかえしの一てんばりだ。
「いいんだもん、ぼくのだもん、貯金なんて、またできるもん。」
いきづまりそうになるとそれをいう。
「いいならいいさ、うるさいね。少し外へいってらっしゃい。ご飯、まだまだなんだから。」
しかし夏樹はどうしても音枝のそばが離れられない。いつものきょうだいげんかならたとえ自分がわるくても安江の部屋にかけこんでうったえれば、なんとなくなぐさめられるのだが、きょうはそんなわけにはいかない。だからよけい音枝の理解ある一言がほしいのだ。それをどういっていいかわからず、彼はただ、しかられた犬が主人のきげんをさぐるように音枝の顔色をみ、泣きたい気もちをこらえている。それなのに音枝は意地わるくわからぬふりをして、しかも口では、
「わかったよもう。貯金なくなってもいいんでしょ。それならそれでいいわよ。ただいっときますがね、おねえちゃんはもう、これから、ぜったい十円玉があってもあげませんからね。