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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

そんなとき安江は文吉と同じようにくやしがって、

――わたしをお人よしだと思って馬鹿にしてるのよ。だまってたって、ちゃんと覚えているから……

その限りでふたりは似たもの夫婦だった。つまり人に向っては同等にものがいえないくせに、ふたりは顔つき合すと力みあうのだ。何もかも質屋に預けてすっからかんの家の中で、若さだけのふたりはそれで満足していた。三十年前の話である。

そんな文吉夫婦のところへ、ある日兵六さんがたずねてきた。

――表札がありませんが、栗本さんはこちらですかいな……

のんきに寝っころがって歌をうたっていた若い文吉夫婦はあわててとびおき、ふたり一しょに玄関へとび出した。玄関といっても四畳半の居間の障子をあけるとすぐ土間で、客との距離は三尺がせい一ぱいだった。入口のガラス戸の外はもう往来なのだ。

「おう、さがしたぞい。表札ぐらい出しといてくれや。」

インバネスをきたまま一とまたぎにあがってきた兵六さんを、安江は何となく警戒しながら、

「表札じゃないけど、名刺が出てるんですがね。いらっしゃるとわかってればお迎えにも出ましたのに。」

「いや、急に思いついてな――」