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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

喜久男くんのが、ちゃんとありますからね。」

「五月人形がね。」

「ちがいますよだ。おひなさまですよだ。ぼくのだよって喜久男くん、いいましたからねだ。」

「そうですかねだ。そんなら喜久男くん、どっかへオチンチンおとしたんだろうねだ。」

これには夏樹も笑い出してしまった。しかしそれで負けたと思ったらしく、一しょにふき出した姉の音枝に突然むしゃぶりついた。

「このやろ! よくも笑ったなッ。」

ひな段をせい一ぱいにぎわしてやろうとて、家中の郷土人形を集めて飾りつけていた音枝は、思わずよろけて夏樹の足をふんだ。

「あたアあたア。」

大げさな声で、骨がくだけでもしたように両手で足の先をかかえこんだ夏樹は、ごめんね、と音枝にいわれると、時を得たように泣き出した。そのこけおどしの大声をきくと、安江はどなりつけた。

「なにさ! 男のくせに。」

しかし夏樹はますます声を高くして泣き立てた。こんな時の手である。二針も縫わねばならないほどの傷をしても大して泣かなかったりするくせにと、安江は更にどなった。

「あまったれ泣き! あられもひしもちも買ってやらないから。」

「いやだア。」

おーん、おーんと、よくもこんな声がとあきれるような泣き声である。