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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

ちょっとまってください。」

こちらでは安江と音枝が声を忍んで笑っていた。客がたれか、もうわかっていたからだ。夏樹だけはひとりしんこくな顔をして、足をさするのを忘れて聞き耳たてている。

「あのう、ワシっていうんですけれど。」

浜子は突っ立ったままげらげら笑う。

「なによ、笑ったりして、失礼じゃないの。」

と、たしなめながら、安江もつい笑ってしまった。玄関へは音枝が出むかえて、

「さ、おじさんどうぞ。鷲なんて珍らしいみょう字だもんで、知らないものはおかしいんですよ。」

台所の方へかけこむ浜子に聞かせるためにもわざととりなすようにいったのに、音枝の心づかいに気づかなかったのかひなた縁にすわったまま客を迎えた安江は、

「ああ、珍らしいわね兵六さん。しばらくでしたね。さ、こっちのあったかい方へどうぞ。」

夏樹が急に向きをかえて客と母とを見くらべはじめた。そして安江の耳もとに口をよせ、

「お客さん、ひょうろくって名前?」

それをひじでおしやりながら安江は、もう六十をこしたはずの客をひなたの座ぶとんに招じた。台所では音枝と浜子がはいまわっているらしい。それを気づかせないためにも安江はしゃべらねばならない。