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ざっとう
雑沓
宮本 百合子
「中央公論」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,832 字 · 50 页
「私はひとじゃなくて、ここの子だと思ってるんだから、どうか安心して、いくらでも喧嘩して頂戴。その方がよっぽどいいわ。私が味方するのは、私がその人の云うことは本当だと思うときだけよ。私だって母様の子だからね、喧嘩は大しておそれないの」
父親と並んで腰をかけ、腕組みしていた順二郎が、制服の膝をゆするようにしながら憂いのあらわれた訴える声で云った。
「どうしてみんなそう怒るのさ。ねえ、母様もおこるのやめて。僕、苦しくなっちまう」
上気して滑らかな瑛子の頬っぺたの上を燈火に光って涙がころがり落ちた。
「ほんとに考えて見れば人生なんて寂しいものだ。結局はひとりさ」
袂から畳んだ懐紙をとり出し、瑛子は涙に濡れた眼をかわるがわるゆっくりと抑えた。天井からさす燈火の工合で、瑛子の手が動くたびに、右の中指から大きいダイヤモンドの、厚みのある、重い、焔のような紫っぽい閃きが発した。
泰造は書斎へ去り、宏子は暗い険しい目付で、凝ッとその光を見つめていた。
ダイヤモンドの冷たいギラギラした美しさも、母の言葉も、順二郎の柔和な訴えも、宏子には皆苦しいのであった。
二