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ざっとう

雑沓

宮本 百合子

「中央公論」1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,832 字 · 50 页

青空文庫

洗面所の廊下で起きたばかりの宏子とすれ違った時、瑛子は優しさのある眼付で、

「どうだい? 眠れた?」

ときき、返事を待たず、

「お前、私の洗面器をつかいやしなかったかい?」

と尋ねた。宏子は、

「いやよ、今起きたばっかりじゃないの」

と答えたが、母の気持を考えると可笑しかった。何か宏子に言葉をかけようとした突嗟にやっぱり母らしい文句しか出ず、ただそれを今朝は、

「おや、ほんとうにそうだったねえ」

とおとなしく結んだ。そこを考えると宏子は滑稽で、また腹立たしいのであった。

裏庭のボイラー付温室は、順二郎が高等学校に入った祝いに瑛子が造ってやったものだ。土蔵との境の木戸があいたりしまったりして、やがて順二郎の友達らしい青年のやや癇高なところのある声がそこから聞えて来た。

「小田んところの兄さんも温室やってるんだね、こないだ小田と見物して来た、とてもデカイや」

「本職なんだろう?……ああ、そうそう、こないだ有難う。お父さんもう帰った?」

「ああ電報が来て帰っちゃった」

きっちり襟元を合わせて絣の角袖を着、袴をつけた吉本も一緒に、茶を飲んだ。瑛子は、

「お父様、この方が吉本さんですよ、この間順ちゃんをホテルに呼んで下さった――」