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ざっとう

雑沓

宮本 百合子

「中央公論」1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,832 字 · 50 页

青空文庫

そういう生活になってから、自分が生れて育った家の生活というものが、だんだんその輪廓を浮立たせて宏子に映るようになりはじめた。日によって母が濃やかに美しく、日によっては、午後になって来て見ても肌襦袢の襟の見える寝間着の上に羽織を着たような姿でいることがある。それも、親たちの生活の一つの波として、宏子にまざまざと感じられるのであった。

「――じゃ、食堂へお茶の仕度をしてね」

瑛子について食堂のドアをあけるとき、宏子はうしろから軽く母親を抱くようにした。

「きょうは、母様綺麗だわ」

「おやおや、それはどうもありがとう」

食堂は北向きで、三分の二ぐらいまでの高さには凍った水のような模様の入ったガラス窓が閉められていた。上の、透どおしのところから、宏子が外套の上から照らされながら静かな屋敷町の通りを歩いて来た、十月の青空が見えている。隣の庭の銀杏の梢もすこし見えた。宏子は、

「すこしあけようじゃないの」

と窓へ手をかけた。

「却って外の方が暖いくらいよ、今日は――」

「私は御免だよ」

中央に大きいテーブルがあり、瑛子はその一番奥の端を自分の場所ときめている。宏子は、その右手にある父の座布団の上に坐った。