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ざっとう

雑沓

宮本 百合子

「中央公論」1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,832 字 · 50 页

青空文庫

瑛子は、娘の冗談に笑おうともせず、両方の袂を胸の前でかき合わせるようにしてストーヴの前のソファにかけた。浴衣をかさねた寝間着の裾が足袋の上にやや乱れかかっていて、古い棒縞糸織の羽織をきている。スタンドの遠い光線からも少しはずれると闇へとけ込む場所に、黙って腰かけている母の姿には、宏子の注意をひきつける、真実なものがあった。暫くその様子を眺めていて、宏子はやさしく、

「ストウヴつけましょうか」

と訊いた。

「そうだね」

つづいて天井の燈をつけようとしたら、瑛子は、

「眩しいからおやめよ」

と止めた。母は涙をこぼして泣いているのではなかった。けれども、何か苦しそうである。心が苦しそうに思われる。その苦しさが肩や頸のあたりに現れている。それは、一種肉体的な苦痛の感じを宏子の中にもよびさますのであった。

「――眠れなかったの?」

「――お父様のやきもちには困ってしまう……」

瑛子は、考えにとりこめられている口調で、床の上に目を落したまま云った。

五

駅はごく閑散で、たまに乗り降りする客の姿が、改札口からプラットフォームの上にまですいて見えるようなところであった。