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ざっとう
雑沓
宮本 百合子
「中央公論」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,832 字 · 50 页
宏子は、変な空虚の感じられる開っ放しの夜の窓の前に佇み、闇に向ってきき耳を立てた。はる子が目ざして行った西寮のあたりから、井戸のモータアの音がして、四辺はまとまりのない低いざわめきに満ちている。三輪が寝台の上にトルコ女のように坐ったなり、両方の眉を上の方へ高く高くもち上げ、唇を丸めて下手な口笛でワルツを吹き出した。
六
次の週、宏子は家へ帰らなかった。その次の土曜が、丁度父親の誕生日であった。
宏子は、途中で花屋へまわって茎の長い薔薇の花を買い、それを持って行った。
玄関がしまっていた。ベルをならしたが誰も来ない。宏子は敷石の上に靴の踵の音をさせて、内庭の垣根沿いに台所の方へまわって見た。ゴミ箱のふたがあけっ放しになっていて、その下のところに黒い雑種の飼犬がねている。犬は宏子を見ると、寝そべったまま、房毛の重い尻尾を物懶そうにふった。その途端女中部屋から、声をあわせて笑声が爆発した。宏子たちに物を云う時とはまるで違う、二重にわれたような手放しの笑声なのであった。
宏子は、そんな声で笑った今の今、自分に対して急にとりつくろった発声で物云いをされるのが苦しかった。