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ざっとう
雑沓
宮本 百合子
「中央公論」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,832 字 · 50 页
「おそかったねえ、おなかがすいただろう。小枝や、さっきのをすぐあつくして」
中学校が古風なフランス人の経営で、生徒に運動をさせなかった、その故もあるのか、順二郎の背の高い体は、どっちかというとぼってりした肉付であった。鼻の下に柔かいぼんやり黒い陰翳がある丸顔には、青年らしいものと少年ぽいものと混りあってのこっている。特に、姉の宏子と同じように父親似で、くっきり山形のついた上唇の線は、彼の顔にあっても印象的な部分をなしているのであったが、その唇のところに彼の子供らしさは主としてのこっているのであった。
実際の内容はちっとも知っていないが、世馴れた概念で大まかにつかんだものの云いかたでドイツ語の進み工合を訊く父親の言葉、一品の皿も自分の愛情で味を濃くしてすすめるような母親の素振りを、順二郎は格別うるさそうにもせず、
「そう?」
「いや僕いらないよ」
などと、ゆったり、いかにも素直に受けこたえしている。
姉弟の間だけで話が弾みはじめた。
「ドイツ語って、やっぱり田沢さんとこへ行ってるの?」
順二郎が高校を受験するとき、準備して貰った独逸哲学出身の人のことであった。