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ざっとう

雑沓

宮本 百合子

「中央公論」1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,832 字 · 50 页

青空文庫

「ちがう。田沢さんが紹介してくれたドイツ人、カフマンての」

「この頃でも田沢さんに会う?」

「うむ、ちょいちょい」

「やっぱり蒼くって、深刻そうにしている?」

ふ、ふ、ふと、悪戯そうに笑う宏子につれて順二郎も、ふっくりした顔を笑いにほころばした、ただ声だけは出さないで。

親たち夫婦の間には、また別箇な話題がすすんでおり、宏子は三井とか某々さんがとか、新聞でよむような人々の名を小耳に挾んだ。丁度姉弟の間で、ドイツ語の発音やエスペラントの話が盛になって来た時であった。築地の土地が、とさっきから没落した実家の処理について話していた母親の声が、急に、おこった調子で高まった。

「お忙しいのは分っていますがね、あなたって方は、いつだって、その場では安うけ合いをして、決して実行なさらないんだから。築地のことでは松平さんだって、どうなったかって、おききになるんですからね、放っちゃおけないんです」

「わかってるよ、だから明日にも勧銀へ行って調べて来よう」

「あした、あしたって。――大体あなたは、建築家のくせに、事務的でいらっしゃらない、私の体の工合がわるくさえなければ、何にもあなたのお世話はうけないんだけれども……」