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ざっきちょうより(に)

雑記帳より(Ⅱ)

寺田 寅彦

「文学」1934(昭和9)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,473 字 · 9 页

青空文庫

前記の小説家もこんなことぐらいはもちろん承知の上でそれとは少し別の意味でそう云ったには相違ないが、しかし不用意に読み流した読者の中には著者の意味とちがった風に解釈して、それだから概括的に小説は高級なもので随筆は低級なものであるという風に呑み込んでいる人が案外多いということに近頃気がついて、そういう事実に興味を感じている。こんな風に、文字の表面の意味とよほどちがった意味を読者に暗示するような記述法が新聞記事の中などには沢山に見出されるようであるが、これらも巧妙な修辞法の一例と思われる。

とにかく科学者には随筆は書けるが小説は容易に書けそうもない。

昔ある国での話であるが、天文の学生が怠けて星の観測簿を偽造して先生に差出したら忽ち見破られてひどくお眼玉を頂戴した。実際一晩の観測簿を尤もらしく偽造するための労力は十晩百晩の観測の労力よりも大きいものだろうと想像されるのである。(昭和九年八月『文学』)