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ざっき(いち)

雑記(Ⅰ)

寺田 寅彦

「中央公論」1922(大正11)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,568 字 · 33 页

青空文庫

花崗岩の板を贅沢に張りつめたゆるい傾斜を上りつめると、突きあたりに摺鉢のような池の岸に出た。そこに新聞縦覧所という札のかかった妙な家がある。一方には自動車道という大きな立札もある。そこに立って境内を見渡した時に私はかつて経験した覚えのない奇妙な感じに襲われた。

つい近頃友人のうちでケンプェルが日本の事を書いた書物の挿絵を見た中に、京都の清水かどこかの景と称するものがあった。その絵の景色には、普通日本人の頭にある京都というものは少しも出ていなくて、例えばチベットかトルキスタンあたりのどこかにありそうな、荒涼な、陰惨な、そして乾き切った土地の高みの一角に、「屋根のある棺柩」とでも云いたいような建物がぽつぽつ並んでいる。そしてやはり干からびた木乃伊のような人物が点在している。何と云っていいか分らないが、妙にきらきら明るくていて、それで陰気なおどろおどろしい景色である。dismal とか weird とか何かしらそんな言葉で、もっと適切な形容詞がありそうで想い出せない。

総持寺の厖大な建築や記念碑を見廻した時に私を襲った感じが、どういうものかこのケンプェルの挿絵の感じと非常によく似ていた。