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あめ

雨

織田 作之助

「海風」1938(昭和13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,261 字 · 44 页

青空文庫

「こら、何ぬかす」

そして白眼をむいている表情が生意気だと撲られた。泣きながら一里半の道をとぼとぼ歩いて帰った。家へはいると、安二郎は風呂銭を節約しての行水で、お君は袂をたくしあげて背中を流していた。それがすむとお君が行水し、安二郎は男だてらにお君の背中を流した。そのあと、豹一がはいる番だが、豹一は狸寝入りして、呼ばれても起きなかった。

だんだんに憂鬱な少年となり、やがて小学校を卒業した。あらためてお君が中学校へ入れてくれるようにと安二郎に頼んだが、安二郎はとぼけてみせた。軽部が中等学校教員になりたがっていたことなどもにわかに想いだして、お君はすっかり体の力が抜け、ひっそりと暮した。豹一の優等免状などを膝の上に拡げているのだった。物も言わずに突き膝で箪笥の方へにじり寄り、それをしまいこむその腰のあたりを見ると、安二郎はなぜかおかしいほど狼狽して、しぶしぶ承知した。豹一はやがて中学校にはいったのだが、しかし安二郎は懐を傷めなかった。お君は毎日どこからか仕立物を引き受けてきて、その駄賃で豹一の学資を賄った。賃仕事だけでは追っつかず、自分の頭のものや着物を質に入れたり、近所の人に一円、二円と金を借りたりした。