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あめ
雨
織田 作之助
「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页
彼の自尊心は簡単に傷ついてしまった。
二度目の三年の時、教室で、ローマ字で書いた名を二つ並べ、同じ文字を消して行くという恋占いが流行った。教室の黒板が盛んに利用され、クラスの者が公然に占っているのを除け者の豹一はつまらなく見ていたが、ふと、クラスの者の誰もが一度は水原紀代子という名を黒板に書いているということに気がついた瞬間、彼の眼が異様に輝いた。彼はクラスの者の中で最も成績の悪い男をつかまえ、相手にはまるで彼が何を訊こうとしているのか分らぬ廻りくどい調子で半時間も喋り立てた揚句、水原紀代子に関する二三の知識を得た。大軌電車沿線、樟蔭女学校の生徒であると知ったので、その日の午後の授業をサボって上本町六丁目の大軌電車構内に出掛け、彼女の帰りを待ちうけた。二時間ばかりも辛抱強く待って、やっと改札口から出て来る水原の姿を見つけることが出来た。教えられた臙脂の風呂敷包と非常に背が高くてスマートだという目印でそれと分り、何が樟蔭第一の美人だ、笑わせると思ったが、しかし大袈裟に大阪中の中学生達の憧れの的だと騒がれている点を勘定にいれて、美人だと決めることにした。