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あめ
雨
織田 作之助
「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页
大阪弁が出たので、紀代子はちらと微笑し、用がないのに尾行るの不良よ、もう尾行たりしないでね、学校どこ? 帽子みれば分りまっしゃろ。あんたの学校の校長さん知ってるわよ。そんならいいつけたらよろしいがな。いいつけるわよ、本当に知ってんのよ、柴田さんて人でしょう。スッポンいう綽名や。いつの間にか並んで歩き出していた。家の近くまで来ると、紀代子はさよなら今度尾行たら承知せえへんしと言い、そして別れた。
先ず成功であったといえる筈だのに、別れ際の承知せえへんしという命令的な調子に苦もなくたゝきつけられてしまった。失敗だと思った。しかし失敗ほどこの男をいきり立たせるものはないのだ。翌日は、非常な意気込みで紀代子の帰りを待ちうけた。前日の軽はずみを些か後悔していなくもなかった紀代子は、もう今日は相手にすまいと思ったが、しかし今日こそ極付けてやろうと思う心に負けてしまった。そして、結局、昨日に比べてはるかに豹一の傲慢にあきれかえった。彼女の傲慢さの上を行くほどであったが、しかし彼女は、余裕釈々たるものがあった。彼女は豹一の眼が絶えず敏感に表情を変えることや理由もなくぱっと赧くなることから察して、いくら傲慢を装っていても、もと/\彼は内気な少年なんだと見抜いていた。