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あめ

雨

織田 作之助

「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页

青空文庫

文学趣味のある紀代子は豹一の真赧に染められた頬をみて、この少年は私の反撥心を憎悪に進む一歩手前で喰いとめる為にしば/\可愛い花火を打ちあげると思った。そして、また、この少年は私を愛していると考えた。それをこの少年から告白させるのは面白いと思ったので、彼女はその翌日、例の如く並んで歩いた時、あんたは私が好きでしょう? ときいた。嫌いだったら一緒に歩いたりしないかも知れませんねという返事に、してやられた想いで、もう一度、そんな言い方ってあるの、嫌い、それとも好き? 好きでしょう? とはっきり言わさねば承知出来ないと意気ごんだ。好きでもないのに好きだと思われるのは癪だと思っていた豹一は返答に困った。しかし嫌いだというのはぶちこわしだ。そう思ったので、「好き」ですと、好きという言葉をカッコの中にいれたつもりで答えた。それで初めて紀代子は彼を一寸だけ好きになるという気持を自分に許した。

そして一週間経ったある日、千日前楽天地の地下室で、八十二才の高齢で死んだという讃岐国某尼寺の尼僧のミイラが女性の特徴たる乳房ならびに性器の痕跡歴然たり、教育の参考資料と宣伝されて見世物になっているのを、豹一はひそかに抱いていた性的なものへの嫌悪に逆に作用されて捨鉢な好奇心から見に行き、そして案の条、自分を虐めつけるいやな気持を味わ