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あめ

雨

織田 作之助

「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页

青空文庫

されて楽天地から出て来た途端、思いがけなくぱったり紀代子に出くわしてしまった。心に穴があいてしまった様にしょげていたところへ意外な出合いであり、まごついてしまったが、ふと今自分が変な好奇心からミイラなどを見て来たのだということに気がつき、之は彼女の軽蔑に価すると、みる/\赧くなった。しかも赧くなったために一層恥しい想いがした。近眼の紀代子は豹一らしい姿に気がつくと、それを確めようと眉のつけ根を引き寄せ、眼を細めていた。そんな表情が、まるで彼が楽天地の地下室から出て来たことをとがめて眉をひそめている様に豹一には思われて、すっかりあがってしまい、こんな恥しいところを見られるのならいっそ地震でもおこって彼女が外のことに気をとられて呉れゝばいゝのにと思った。常にもあらずどうかしたのではないかと思われる程恐しく赧くなっている彼を見ると、紀代子はかえって自分の方が照れて、早くその顔色が普通になってくれたらと思う位であったが、しかし恥しがっている彼をじっと見てやれという一寸残酷な気持が心の奥底にあって、思わずニヤリとしてしまい、一言もいわずに彼の可愛い花火を下眼づかいにじっと見つめた。