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あめ
雨
織田 作之助
「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页
冷淡な彼の態度を見ると、彼女は矢張り嫌われていたのかと思い、そのため一層彼を好いてしまった。それで、その日の別れ際、明日の夕方生国魂神社の境内で会おうと断られやしないかと内心びく/\しながら豹一がいい出すと、まるでそれを待っていたかの様にいそ/\と承諾し、そして約束の時間より半時間も早く出掛けて彼を待った。
君恋し唇合わせねど、涙はあふれて想いは果てなしというその頃流行していた唄からの思いつきで、豹一は、その夕方、簡単に紀代子に接吻をした。一寸した自尊心の満足があったが、紀代子が拒みもせずに、彼の背中にまわした手に力をいれてぐい/\と胸を押しつけて来るのを感ずると、だしぬけに気が変った。何かいやなものを感じたのである。いきなり彼女の体を押しのけ、そのまゝ物も言わずに立去った。紀代子は綿々たる情を書きつらねた手紙を豹一に送った。豹一はそれを学校へ持参し、クラスの者に見せた。既に豹一と水原紀代子の事を薄々感づいていた者もそんな豹一には、偽の手紙やろ、お前が書いたんとちがうかと言わざるを得なかった。豹一はクラスの者がひそかに出した恋文を紀代子から奪いとって、それを教室で朗読した。