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あめ
雨
織田 作之助
「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页
家出した男にうまい仕事がある筈はなし、丸金醤油運搬用貨物船の火夫の口ならあるといわれ、四国の小豆島に渡った。成るにこと欠いて、火夫などになったのは、築港で寂しく時を過していた少年の海への郷愁からであったろうか。しかし、荒くれ者の船長が彼の哀れな腕を嗤っただけあって、船の仕事は辛かった。小豆島と高松を往復する一〇〇噸足らずのボロ汽船であったが、彼の石炭のいれ方がちゃちだから船が進まんと、罐の前でへっぴり腰を蹴り飛ばされた。もう一人いる火夫は船長たちとバクチばかししていた。そのバクチの仲間に無理矢理にいれられて、お君に貰ったなけなしの二十円を捲きあげられその上船長に十円の借りが出来た。漬物と冷飯だけのひどい夕飯を情なくたべながら、「脱走」ときめた。二日経った夜、高松の港につくと豹一は船員たちと一緒に女を買いに行くのだと船長に五円借りた。それを大阪への旅費にし、勿論バクチの借りは踏倒すつもりだった。焼け出された様な火夫の服のまゝではいくら何でも帰れないと、家を飛び出す時に着ていた着物を新聞紙に包み、何喰ぬ顔で船から降りようとすると船長が怪しんでそいつは何だ。