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あめ

雨

織田 作之助

「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页

青空文庫

知ってたら来なかった? 返答はなく、尚も、最初はどんな風に感じた? 顔を袂でかくしていた? 残酷な質問であり、そして一口に言えば人相のわるい歪められた顔付であった。雇人の話で辱しめられたお君の姿が頭にこびりつき、安二郎を動物と思う捨鉢な憤怒が燃えているためであったか。今はどんな風に思ってる? 習慣だわ、皆んな金のため。一種の労働か? そう。そうか、金に換算されるのか、大したこっちゃないと何か救われて、一筋に思いつめていた事大観念めと重荷がとれる想いがした。女の体と楽天地のミイラを比較してみて、いろはにほへど散りぬるをと何もかもしゃらくさい気持になった。性的なものへの嫌悪に余りに憑かれていた自分が阿呆らしく見えた。男も女も同じだ、何故なら男だけではと思い付き、真理は平凡なりと呵々大笑した。しかし、そんな風に割り切れるところに豹一の浅墓さがあった。妓の要求に笑いながら応じたが、しかし妓は何故か豹一に激しく燃えて、豹一の感覚は折角割り切れた観念を苦もなく蹴飛してしまった。窓の下を走る車のヘッドライトが暗闇の天井を一瞬明るく染めたのを、慟哭の想いにかられて見ていた。