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あめ

雨

織田 作之助

「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页

青空文庫

気付いて、銀糸のはいった黒地の御召を著しく抜衣紋しているその女がすらりとした長身を起して、傍に来たが、ぱっと赧くなった切りで、物を言おうとすると、体が震えた。呆れるほど自信のないおど/″\した表情と、若い年齢で女を知りつくしている凄みとをたゝえた睫毛の長い眼で、じっと見据えていた。その夜、赤玉がカンバンになると、女と一緒に千日前の寿司捨で寿司をたべ、そして、五十銭で行けと交渉した車で萩之茶屋の女のアパートへ行った。女が赤玉のナンバーワンということで自尊心の満足があったが、しかし養ってやるから一緒に暮そうといわれ、本当か、俺の様なものが好きだとは何かの間違いじゃないか。好きやから仕方ないわ。巴里楼の妓に仕込まれた技巧が女を惚れさしたのだと豹一は思った。そう思うことによって豹一は自らをさげすみ、又、女をさげすんだ。

三日経つと再び喀血した。重態ときかされ、自分の過去を振りかえって見た。絶えず自分の存在をたしかめて来た筈だったのに、何かそこにぽかんと穴のあいてる様な気がした。ひどく自分に自信がなくなり忘れていた筈のいろんな女の顔を想った。弱気を嗤いながら、円山公園で最後に接吻した女専の生徒に手紙を出した。