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あめ
雨
織田 作之助
「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页
妹でございます、姉伊都子ことは昨年の暮ふとした病気にかゝり、十二月二十日夜永遠にかえらぬ旅に立ってしまいました。姉の日記によりあなた様のことを知りました。生前何くれと姉がお世話さまでした。今後とも宜しくいたらぬ私を御指導下さいませ、妹冴子より。そんな手紙が来た。死んだのか、十二月二十日に俺は何をしていたのかなと思い、その手紙を握りしめて死んで行こうと、ふと感傷的になった。豹一にも感傷の秋があったのだ。木犀の花が匂う頃死ぬと決めていたのに危く助かった。
散歩が出来る様になり、ある雪の日、浮かぬ顔で心斎橋を歩いていると、意外な男に会った。三高時代寄宿舎の同じ部屋にいた小田という男であった。どうだ、この頃も盛にやってる? 大丸横のヴィナスという喫茶店に落つくと小田は煙草のヤニで黄色くなった指を突き出して、そう言った。なに、メッチェンの事さ、当時病身故慎しんでるのか、胸が悪い? 石油のめ。死のうと思っていたんだがというと、失恋? あわれむ様な小田の顔にはきかける様に女なんて自分の思う様になるよ。自分でも信じていない言葉を言ってしまった。小田に挑まれて、大阪劇場地下室で将棋をさし、花田八段的攻撃と称する小田に翻弄されて、ぺしゃんこになった。