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ゆきとどろ
雪と泥
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋、1954(昭和29)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,993 字 · 40 页
四
「これでも私は五千石の跡取りだよ」
おしのはしゃくりあげた。子供のようにしゃくりあげて、全身の力をぬき、ぐったりと重く凭れかかりながら、口の中でかすかにその金高を囁いた。折之助は痛みを感じたように眉をしかめ、だがさりげない調子で訊いた。
「それで、その金はいそぐんだね」
「この月末までなんです、でもいや、あたしそんなこといやです」おしのは両手で男にしがみつき、激しく身を悶えながら云った、「あなたにそんな御迷惑を掛けるくらいなら死んだほうがましです」
「月末というと、あと三日しかないな」
「お願いです、どうかそんな御心配をなさらないで、そんなことをしたら、あたし生きてはいられませんわ」おしのはまた喉を絞るように泣きだした、「――もうあなたに可愛がって頂いたし、心残りはないんですから、ねえ、お願いよ、そんなことはしないって仰しゃってちょうだい」
折之助はおしのの肩を抱き、放心したように暗い壁の一点を見まもっていた。
四
父の居間の納戸に金箪笥がある。それには誰も手をつけることは許されていない、十幾つかある抽出や開きには、みな厳重に鍵が掛けてあるし、鍵束は父が放さずに持っている。