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ゆきとどろ
雪と泥
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋、1954(昭和29)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,993 字 · 40 页
「――突然で迷惑かもしれないが、非常に急な入用なので、それに、家には借分はない筈だと思うが」
「それはもう仰しゃるまでもございません、よろこんで御用立て申します」
折之助はかっとのぼせた。思わず声をあげそうになったが、佐平は続けて云った。
「すぐに用意をしてお供を致しますから、どうぞちょっとお待ちを願います」
「いや、それは」と折之助は慌てて手をあげた、「金は私が持ってゆくからわざわざ来るには及ばない、そのために私が代理で来たんだから」
「いえそれはいけません、暫く御無沙汰をしておりますし、御病気とあればおみまいも申上げたいし、お手間はとらせませんからどうぞちょっとお待ち下さい」
「しかしその金は、家で入用なのではなく、これからすぐ届ける先があるので、父の親しい知人なのだが、本所のほうの」
「いや、それだけは」と佐平は歯を見せて笑った、「折角ですがそれだけはどうも、なにしろ小出さまの御前は、金についてはごくきちょうめんでいらっしゃいますからな、これはもうじかにお手渡しするよりほかにございませんので、いえ、駕籠でまいれば暇はとりませんから」
こう云って、佐平は帳場のほうへいった。