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ゆきとどろ

雪と泥

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋、1954(昭和29)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,993 字 · 40 页

青空文庫

ば、――これは最後の、たった一つの運だめしなんだ、まあおちつけ、時間はまだたっぷりあるさ」

彼は眼をつむって腕組みをした。

折之助は梅の井へ寄って、おしのへ伝言を頼んだ。それから浅草寺のまわりをあてもなく歩き、山の宿という処で酒を飲んだ。おしのへは「明日の朝九時」という伝言をした。今夜はおそくなるから、明日の朝来てくれるようにと。――おしのはもう来て奥にいたらしいが、いそぐからといって、伝言を頼むとすぐに外へとびだした、そのとき小雨が降りだして、彼が山の宿の居酒屋から出ると、さらさらした粉雪になっていた。

「ああ、――」と彼は首を振った、「おしのは、あの伝言を、信じてくれたろうか、信じてくれない筈はないが、もしも信じられなかったとしたら、どんなに悲しみ絶望したことだろう」

堤の下で舟の着くけはいがし、なにかこわ高に話しながら、こちらへ登って来る者があった。折之助はさっと蒼ざめ、立っていって耳を澄ませた。

「――酔ざめの水へとどかぬ手枕に」

さびたいい声でうたうのが聞えた。

「――おまえの髪とわしの髪

もつれて解けぬ仲ぞとや

逢いにゆくときゃ足袋はいて……」