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ゆきとどろ

雪と泥

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋、1954(昭和29)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,993 字 · 40 页

青空文庫

登って来たのは三人伴れであった。一人がうたい終ると、他の二人がやかましくはしゃぎながら、小屋の前を廓のほうへと去っていった。

「だめだ」と彼は震えながら呟いた、「――やっぱり持っているようじゃない、それだけの遊びをする客はもっと違う筈だ、どう違うかはわからないが、どこかにもっと違う感じがするような気がする、まあおちつけ……」

彼は縁台へ戻ろうとした。そのときまた、下の舟着きからの人の声が聞えて来た。

「えっ、この二百両、みんなでげすか」としゃがれた太い声が云った、「これをそっくりでげすか」折之助はこくっと唾をのんだ。

「そうだ、そっくりよこしな」

「だって旦那それじゃあお約束が違いますぜ」

「考えてみるとな」おっとりした含み声が云った、「おまえが金を持っていると、どうしたって先方にわかってしまう、金というやつは、持ちつけない者が持つとすぐにわかるものだ、それでは面白くない、本当に一文なしということでなければ、あたしの出る幕がくさってしまう、そうだろう平孝」

「それはそうかもしれませんが、なにしろ旦那はお人が悪うげすからな」

二人は堤のほうへ登って来た。一人は客、伴れは幇間であろう、客のほうは肥えた躯に合羽を着、蛇の目傘をさしていた。