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ゆきとどろ
雪と泥
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋、1954(昭和29)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,993 字 · 40 页
「でもまさかと思ったわ」おしのは火鉢の縁できせるを叩いた、「あんたは会わないから知らないけれど、まるっきりお坊ちゃんで、気のやさしそうな人柄なんだもの」
「それはあんただって同じことじゃないの」
「少しおどおどするくらいうぶで、寝たときなんぞ固くなって震えていたし、まるでなんにも知っちゃいなかったわ」
おしのは煙草を詰め、火鉢の炭火を転がして吸いつけた。部屋の中は、やはり散らかり放題であるが、二人のほかには誰もいず、明るい窓の障子の外では、雪解の雨垂れの音がしていた。
「結局どのくらい損したのよ」
「壱両壱分とちょっとかしら」おしのは片手の小指で耳のうしろを掻いた、「いま考えると欲張りすぎたかもしれないわ、三十両か五十両くらいに云えばよかったかもしれない、……それから大きく持ちかけてもよかったんだ」
「さあどうかしら」
「甘くみすぎたのが悪かったのよ、だって疑わしいようなところはこれっぱかしもないんだもの」おしのは自嘲するように、鼻の頭へ皺をよせた。「――それなによ、また子供へ縫ってやるのね」
「綿入がないっていって来たから」
「そんなこといちいちきいてやることないじゃないの、里扶持をきちんと遣ってあるのにさ、あんたは少し人が好すぎるんだ」