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ゆきとどろ
雪と泥
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋、1954(昭和29)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,993 字 · 40 页
「小出は純真すぎるからな、これまで友達づきあいもあまりしないし、酒も飲まないし、女あそびなんかもしたことがないだろう、学問所では模範生だが武芸は嫌い、――まるっきり世間というものを知らないんだから」
「それとこれとどんな関係があるんだ」
「まあ聞けよ」と主馬が云った、「そんなふうに道で出会って、ひと眼でお互いが生涯を託す相手だと認めたという、むろん絶対に無いことではないだろう、現実には稗史小説などの及びもつかない偶然がいくらもあるものだから、しかし、小出のようにそうあたまから信じこむのも不用心すぎる」
「ではなにを用心したらいいんだ」と折之助が云った、「私が誘拐されて身の代金を取られるとでもいうのか」
「なに、それには限らないさ、ほかにも手はいろいろあるよ」
うしろで足音がした。池畔の縁台で話している二人のうしろへ、茶店から老婆が湯沸しを持って近よって来た。
「熱いのをおさし致しましょう」
老婆はこう云って、縁台の上の土瓶へ湯を注ぎ、そこにある葛餅の空き皿を片づけて戻っていった。
「金ということだったが」主馬は思いだしたように、ふところへ手を入れた、「頼まれ甲斐がなくて恥ずかしいけれど、これで勘弁してくれないか、だいたいおれに金のはなしなんて無理だよ」