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ゆきのいちにち

雪の一日

岡本 綺堂

「新潮」1933(昭和8)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,354 字 · 5 页

青空文庫

これで向う側に小学校の高い建物がなければ、堀端の眺望は一層好かろうなどと贅沢なことも考える。表に往来の絶え間はないようであるが、やはりこの雪を恐れたとみえて、きょうは朝から来客がない。弱虫は私ばかりでもないらしい。

午頃に雪もようよう小降りになって、空の色も薄明るくなったかと思うと、午後一時頃からまた強く降り出して来た。まったく彼岸中にこれほどの雪を見るのは近年めずらしいことで、天は暗く、地は白く、風も少し吹き加って、大綿小綿が一面にみだれて渦巻いている。こうなると、春の雪などという淡い気分ではなくなって来た。寒暖計をみると四十五度、正に寒中の温度である。北の窓をあけると、往来を隔てたK氏の邸は、建物も立木も白く沈んで、そのうしろの英国大使館の高い旗竿ばかりが吹雪の間に見えつ隠れつしている。寒い北風が鋭く吹き込んで来るので、私はあわてて窓の雨戸をしめ切って、再び机のまえに戻った。K氏は信州の人である。それから聯想して、信州あたりの雪は中々こんなことではあるまいと思っているうちに、更に信州のT氏のことを思い出した。

T氏は信州の日本アルプスに近い某村の小学校教員を勤めていて、土地の同好者をあつめて俳句会を組織しているので、私の所へもときどきに俳句の選をたのみに来る。